早稲田大学校歌のトリビア (11)「理想の影は」は主語か? について知っていることをぜひ教えてください

facebook稲門クラブの鈴木克己さんの2021/09/05の投稿を許可をいただいて転載させていただきます。(転載する場合ご連絡ください。)


2番の歌詞の後半を考えてみましょう。相馬御風は校歌の歌詞全体を文語で書いているため、現在の私たちが口語の知識だけで理解しようとすると意味を取り違えてしまうところも少なくありません。

まず、「影」が輝き布(し)くというのは変ではないか、と今時の高校生は言い出しそうです。この「影」は、光のあたらない暗い場所、写った像、姿、不吉な兆候…といった現在主に用いられている表現ではなく、「日、月、星や、ともし火、電灯などの光」を意味する影です。つまり、「星影」「火影」「月の影が差す」といった用例と同じです。従って、3番の「理想の光」は、この「理想の影」に呼応しているわけです。

次に冒頭の「やがても」。「も」は係助詞で「形容詞の連用形・副詞・数詞・接続助詞「て」などを受け、また複合動詞の中間に介入して詠嘆的強調を表わす」(小学館日本国語大辞典)働きをしているので、「ああ、実に…なのだなあ」ぐらいの感情が込められていると考えてよいでしょう。

ここで「やがて」を「まもなく、そのうちに、時が少しずつたって」(岩波国語辞典)といった現代文のニュアンスでとらえてしまうのは禁物です。「ああ、久遠の理想の光は、(これから)まもなく、そのうちに広く天下に輝き広まるだろう」と説明したら、「久遠の」と矛盾します。つまり、天地開闢とは言わないが、早稲田の建学以来ずっと輝いていて、今現在はもとより、これから将来にわたり輝いている理想の精神は「久遠」だと例えているのですから、歌っている時点で、これまでも今も輝いていないが、いずれ輝くことになるだろう…では、「久遠」とは言えません。

古語の語義から項目を挙げている国語辞典をあたってみればすぐに見つかりますが、歌詞2番の「やがて」は、「ある事態・状態がそのままで変わることなく、引き続いて次の事態・状態が出現するさまを表わす語。そのまま。そのままずっと。」(小学館日本国語大辞典)の意味です。つまり、「ああこれまでと同じように、今、そして未来においても変わらず…なのだなあ」といった感じでしょうか。

次に、口語の感覚だと「久遠の理想の影は」を主語、「輝き布かん」を述語とあっさり解釈したくなりますけれども、1・3番の歌詞との共通点を考慮するならば、実は注意が必要なところです。

早稲田大学校歌の歌詞全体には、いくつかの叙述や動作が描かれていますが、興味深いことにいずれも「われら」が関わっていることは皆様ご存知でしょう。文面上ダイレクトに「われら」が出て来なくても、3番の「仰ぐは同じき理想の光」は世の人々ではなく「われら」が仰いでいることが言外に示されているわけです。

となりますと、2番でも「久遠の理想の影」がわれらの手を介さず無関係に「あまねく天下に輝き布」くことはあり得ないでしょう。1番に「かがやくわれら」と描写している以上、「われら」の行為と「理想の影(光)」とは動作の上で結び付いていると解釈しなければなりません。

実は「理想の影は」の「は」は「ごはんは食べてきましたか?」の「は」と同じ助詞で、話題である目的語を提示する働きをしていることになります。

つまり、「輝き布かん」の助動詞「む(=ん)」は 光が「~するだろう」という推量ではなく、話し手(われら)自身の意志や希望を表す「~しよう」という提案ととらえた方が隠れた主語との関係がすっきりします。

最後に残った「あまねく」は、「すべてに広く行き渡るさま。すみずみまで。漏れなく。」(大辞林)を表す副詞です。

以上を整理し補足しますと、

ああ、今までと変わらず将来においても、(われら早稲田の学生は)永遠なる(早稲田の建学の精神である)理想の光を世界中の隅々まで漏れなく輝かせ広めようではないか!

といった意味合いとなります。

古語辞典によっては「布く」は自動詞の用例のみ掲載している場合もあり、一見「光が広まる」と解釈したくなりますけれども、「何かを一定の範囲にわたって、行き渡るようにする。」(新明解国語辞典)といった他動詞の用例もあることを加味すれば、「われらが理想の光を広めよう」の方が全体の流れとしても歌詞の主旨が生きてきます。

一方、「輝き布かん」の複合動詞を「輝きながら広まるであろう」と直訳するならば、

これからも(われらの灯す)久遠の理想の光は、世界の隅々まで輝き広まるだろう

と光を主語ととらえてもよいのではないかといった解釈も成り立ちます。

私個人としては、1番の「行手を見よや」、3番の「名をばたたへん」とも命令・提案で締めているので、2番も「われら」は~しようではないかというニュアンスで揃えている方が自然な感じがしてなりません。

国文学に詳しい方に是非ともご教示頂ければ幸いです。

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