早雲山地すべり災害(そううんざんじすべりさいがい)、早雲山山津波(そううんざんやまつなみ)は、1953年(昭和28)7月26日に早雲山で発生した地すべり災害(1)道了尊別院が全壊し、死者10名(2)(3)(6)ないし13名(4)(5)、負傷者15名が出た(1)(2)(3)(4)

事故の経緯

1953年は、梅雨の時期が相当長引いていた(6)。早雲山では、同年7月24日, 25日頃から小規模な地すべりが頻発していたらしく、下流にあたる強羅でも時々地響きがしていたが、同月26日の午前10時20分頃、早雲渓谷(須之沢)上流で大規模な土石流が発生し、上流に設置されていた地滑り防止用の砂防堤数個を破壊して流れ下った(6)

途中でその一部が分流し、須之沢渓谷北岸の崖上にあった寺院(道了尊別院)の本堂と付属建物を全半壊させ、死者10名、負傷者16名を出した(6)。また強羅水道の浄水池と送水管等の施設が破壊された(6)。事故後の附近の土石流の厚さは3-5mに達していた(6)

当時、林間学校に訪れていた生徒や僧侶、勝俣組の社員の計13人が行方不明となった(5)

土石流の本流は、渓谷沿いに流れ下り、その下流の道路約150mとその中間に架けられていた早雲橋を埋没させ、二ノ平の集落近くに達した(6)

土石流の総延長は約2km、最大幅約150m、流出した岩石粘土流の容量は約70万m3と推定された(6)

26日の大規模な土石流の後、同年11月にかけて、何度か小規模な崩落が起き、また降雨により土砂が下流に流れ落ちた(6)。翌27日、28日にも小規模な崩壊が起こり、同年8月8日には降雨により土石流が再び早雲橋の近くまで流出した(10)

 

崩壊の原因

岸上・小坂1955は、事故発生の後、一部に、鳴動を伴う微動(地震)が頻発し崩壊の原因になったと伝えられたが、直近で箱根附近一帯で微動が報告されたのは前年の1952年11月であり(時期が隔たっており)、本件事故に直接関連して、そのような事象は報告されていない、と指摘しており(6)、崩落地点は、「早雲地獄」と呼ばれる、活発な噴気孔があり、温泉が湧出している荒廃地帯で、崩落前に火山性粘土が堆積していたと考えられ、また傾斜も40度を超える急傾斜で地形的に地すべりが発生しやすく、梅雨が長引いたことで粘土質の土壌が水を含み、滑りやすくなったことが原因と推測している(6)

再発懸念と対策工事

災害の直後から、4期にわたって、復旧工事と下流部(須沢)での砂防施設の整備が行われたが、源頭部では崩壊地の拡大や新たな火山性地すべりの観測などがあり、再度の土石流災害発生が危惧されている(9)

表 下流部(須沢)で行われた砂防工事

事業費

開始

年度

終了

年度

工事種類

A

B

C

D E
1 3.5億円

1953

S28

1957

S32

10万m3 30本 11基 6基
2 7.5

1958

S33

1984

S59

59 14 2 513m
3 40

1986

S61

1993

H5

6 2+4
4 20

1994

H6

NA 4 3

資料:(8), (9) 記号:S 昭和 H 平成 A 源頭部の不安定な土砂の除去 B 噴気ガスを抜くための排気ボーリング C 破壊された砂防堰堤の復旧、嵩上げ D 導流堤の復旧・新設・嵩上げ E 流路工の整備

1989年(平成元)頃から、源頭部における地すべり変動が活発化したため、早雲山地すべり対策検討委員会(委員長:中村三郎防衛大学校名誉教授)が設置され、対策が検討された(8)

1996年(平成8)から、国土交通省関東地方整備局により、早雲山の源頭部の地すべり土塊130万m3に対して、アンカー工による対策工事が行われた(これも4期工事のうちかと思われるが不詳)(3)(9)

慰霊祭

2018年(平成30)7月26日に、(株)勝俣組が願主となって、道了尊箱根別院で「早雲山崩壊遭難横死者慰霊祭」が行われ、箱根町町長、県会議員、箱根登山鉄道強羅観光協会など関係者約30名が参列した(4)(5)。2018年当時、勝俣組は、早雲山の、同院よりも標高の高い現場で、地すべり防止工事を行っていた(5)

参考資料

  1. 「年表」播摩晃一ほか編『図説 小田原・足柄の歴史 下巻』郷土出版社、1994、148-151頁
  2. 総務部総務部防災課「箱根火山のおいたち」箱根町ウェブサイト、2016年3月20日登録、2022年9月20日更新
  3. 地すべり 早雲山地区(箱根町)(pdf)」国土交通省関東地方整備局ホーム>・・・>神奈川県の効果事例、2005年2月10日
  4. 大雄山最乗寺ホーム>ニュース>早雲山崩壊遭難横死者慰霊祭、2018年7月26日
  5. 65年前を忘れないタウンニュース 箱根・湯河原・真鶴版、2018年8月3日号
  6. 岸上・小坂1955:岸上冬彦・小坂丈子「1953年7月26日の早雲山山津波の調査」『東京大学地震研究所彙報』Vol.33, Part.1, 1955/6, pp.153-161
  7. 「早雲山地獄の崩壊」『地質ニュース』
  8. 一般社団法人 斜面防災対策技術協会>斜面防災技術>個別地すべりの紹介 神奈川県> 早雲山地すべり、更新時期不明
  9. 県西土木事務所小田原土木センター「須沢・早雲山の砂防工事と地すべり対策工事」神奈川県ホームページ、2022年10月20日更新
  10. 早雲山地獄の崩壊」産総研 地質調査総合センター『地質ニュース』No.2, 1953/9